中国の認知戦よりネトウヨのデマの方がよっぽどやばい沖縄県知事選

さすがにデニーさん気の毒だろ
安田峰俊(Minetoshi Yasuda) 2026.09.11
誰でも

私は本来、沖縄には縁もゆかりもありません。しかし、24年末(『週刊現代』講談社)と今年上半期(『週刊ポスト』小学館)に中国の沖縄工作大特集をそれぞれ徹底的にやりました。結果、世間の「沖縄好き」の人たちみたいな現地への思い入れはなにもないのに、なぜか中国の対沖縄工作については日本の民間人でいちばん詳しそうな人になっています。

もちろん、知らぬ土地に触れるときの作法として、地域の歴史も基地問題もアイデンティティもできる範囲で勉強はしました。でも、中国ルポライターである自分のなかで沖縄は主役じゃない。中国を外から覗くチャンネルのひとつ。かわりにオーストラリアでも、カンボジアでもルワンダでも構わない。自分にとっての沖縄はそういう土地です。

私はそんな姿勢で、中国にしか興味を持たずに記事を書いてきました。

2024年11月11日、玉城知事(左)にインタビューする私。デニーさんは人柄は本当に素晴らしいのだ。取材中も失言していたけれど……。

2024年11月11日、玉城知事(左)にインタビューする私。デニーさんは人柄は本当に素晴らしいのだ。取材中も失言していたけれど……。

結果、玉城デニー知事本人のインタビューで台湾関連の失言を引き出して県地域外交の中国傾斜を暴いたり、知事の腹心に習近平系(モロにそれ)の華人団体が食い込んでるのを晒したり、知事の支持母体である辺野古の反対協の船に『環球時報』記者が乗り込んだ件を告発したり、知事に近い市民団体が中国人団体(設立時顧問が人民解放軍核ミサイル部隊の元政治将校)と共同で陸自の勝連分屯地に抗議活動した件を伝えたりしました。

安田は中国を追いたいだけ。デニーさんになんの悪意もない。なのに島ぐるみで呪われても仕方がない記事しか書いてない。すまん。

ひどいもんはひどい

しかし、そんな私でも今回の沖縄県知事選(9月13日投開票)にまつわる偽メール事件は心がざわつきます。彼らとなんの関係もない部外者の立場で見てもえげつなさすぎる。

世間では中国の認知戦とか騒ぎがちですが、中国よりも日本国内の陰謀論者やネトウヨの方が、「日本人が信じ込むデマの流布」はずっと上手です(ちなみに中国、彼らは野心はありますが「自分より弱く貧しい存在に対する理解や関心」が根本的に弱いので、日本本土や沖縄に真に寄り添った情報発信とかはそう簡単にはやれないです)。

さておき、朝日新聞の記事から、偽メールの概要もまとめておきましょう。

玉城氏の陣営によると、メールは11日に地元メディアの記者ら一部の有権者に送られた。件名は「【沖縄県知事選挙】玉城デニーからの投票のお願い」で、実績紹介や3期目に向けた方針などは、実際に玉城氏がインターネット上で公開している文章と同じ内容が記載されている。

 だが、送信元のメールアドレスは陣営が使っているものではなく、「『沖縄県』を『琉球県』へと改称する」といった玉城氏が主張していない内容も加えられていた。

 メールの最後には実際の選挙事務所の住所や電話番号を記載し、「投票して頂いた方へお礼の品を渡しています」とも書かれていた。投票済証明書や投票用紙の写真を持って、事務所に来るよう呼びかけていた。

たとえ文面の一部をAIで作ったにせよ、偽メールの本文は一定の沖縄への知識を持ってプロンプト指示しないと作れなさそうな内容です。また、中国が選挙介入してわざわざ古謝玄太氏を有利にさせることにもあまりメリットはなさそう。

この偽メールの作成元は国内だと考えるのが妥当でしょう。他にも玉城氏関連のフェイク動画とか、山ほどありますね。

首長選というネットのおもちゃ

そもそも過去数年、地方の首長選は陰謀論者や右派系デマインフルエンサーのおもちゃになってきました。

兵庫県知事選、宮城県知事選、石川県知事選……と事例は無数にありますが、今回は沖縄県知事選。「日本全国の人が知事の名前を知っている都道府県は東京・大阪・沖縄のみっつしかない」といわれるメジャー県の知事選です。

しかも現職のデニーさんは、ネット右派のみなさんからの嫌われ者。かつての兵庫や宮城の知事選を上回る、デマ祭りが起きるのは必然です。むしろ、こうした事態は事前に極めて容易に想像がつくのに、なにも対策されなかったのかなと思うほどです。

辺野古基地を眺める大浦湾の浜辺にいたヤドカリ。2021年10月撮影

辺野古基地を眺める大浦湾の浜辺にいたヤドカリ。2021年10月撮影

デニー地域外交も問題はあるが

ちなみに、玉城県政が力を入れた地域外交が、結果的に中国の対沖縄政策とピッタリ合致してしまった問題自体については、中国屋さんとしては私は非常に批判的です。

2023年6月に習近平が「琉球」の歴史に関心を示す発言をおこなって以降、中国側の対沖縄接触は目立って増えました。

翌月、玉城知事が国貿促(沖縄県にガッツリ食い込んでいる日中友好団体)の仲立ちで訪中した際に李強首相と会談した席次は、異例の高さ。現地できっちり『環球時報』のプロパガンダ取材も受けています。

訪中時に『環球時報』邢曉婧記者(左)の単独インタビュー時応じ、同紙を大きく飾ることになった玉城知事。なお邢記者はこの2年数ヶ月後、辺野古近海にあらわれて反対協の事務局長のグラスボートに乗り込む。

訪中時に『環球時報』邢曉婧記者(左)の単独インタビュー時応じ、同紙を大きく飾ることになった玉城知事。なお邢記者はこの2年数ヶ月後、辺野古近海にあらわれて反対協の事務局長のグラスボートに乗り込む。

その後も中国の駐日大使や在福岡総領事、福建省の党委書記らが沖縄との接触を重ね、玉城県政はこれらをある時期(24年末)までは無警戒に受け入れ続けてきました。

デニーさん台湾塩対応問題

私自身、24年にデニーさん本人に取材した際、「日本は(中略)中国と台湾が『一つの中国』だという原則を踏襲する」という発言をご本人から聞いています。

日中共同声明における日本の立場は、中国の台湾についての立場を「十分理解し、尊重」なので、彼の認識は日本政府の公式見解よりも中国政府の見解に近いといえます。沖縄県知事が台湾を訪問する際には、事前に東京の中国大使館へお伺いを立てることが慣例化しており、他県とは違った事情に置かれてもいます。

24年5月には、台北駐日経済文化代表処那霸分処の処長(実質的には台湾の在沖縄総領事)が沖縄メディアに直接、玉城県政下での台湾の冷遇と対中傾斜に苦言を呈する事件も起きました。

デニーさんはものすごく陽気で優しいおじさんですが(これはガチ)、その経歴の上で、中国や台湾に詳しい人ではありません。

そうした人が「地域外交」に前のめりになり、そのブレーンにしていた日中友好団体の沖縄出身幹部らの「助言」を素直に受け入れてきた結果が、こうした中国認識や対中国姿勢である。そんな批判自体は成り立つと思います。

無知識親中派vs.陰謀論選挙ハックの激突

しかし、事実に基づく政治家への批判と、無根拠なデマとは厳然と区別されなくてはなりません。

なにより、対立候補の古謝玄太氏は、本土のネトウヨや陰謀論勢力(日本保守党や参政党も)と組む形、つまり意識的に石川や宮城の知事選と同じ構図を作り出すことで現職を叩き落とす選挙ハッキング戦略を取っているといえる。

もちろん私は沖縄に対しては部外者ですが、内心では「デニーさんかわいそう」とは思っています。彼もダメはダメだけど、相手のほうがもっと道義的にダメじゃね? と。

……投開票は13日。選挙結果がいかなるものになれど、おそらく禍根は残ります。

本土のネトウヨと陰謀論者のおもちゃにされた選挙は、本土と沖縄の分断をより拡大させる結果を生むのではないでしょうか。

中国は喜ぶだろうな。

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