あなたが推し作家を推したいときに間違えない方法

新刊は発売週に紙で買え
安田峰俊(Minetoshi Yasuda) 2026.08.19
誰でも

こういうタイトルですが、推す相手は私じゃなくても構いません。もちろん、可能なら私を推してほしいところですが(正確に言えば、今回の新刊を推してほしい。理由は後述)。あと、こういうの登録する↓のもいい方法です。それはさておき。


あなたに好きな作家がいたとします。しかも、知る人ぞ知るランクの人であるとする。

令和8年の現代において、読者がそんな人を支えるにはどうすればいいか。本記事はそれを知るための完全保存版マニュアルです。あなたの推しを1日でも長く生存させるためにはどうすればいいかを、作家視点からお伝えします。

(推したい相手が漫画家さんの場合、多少事情が違うこともありそうですが、基本的な仕組みは近いかと思います)。

重要なのは著書

ここが最大の推しどころです。というのも、いかに人々が本を読まなくなっても、作家(ライターやジャーナリスト全部含む、以下同じ)にとって一番大事なのは「著書」だからです。

実は作家を名乗るのは簡単です。ライター試験とか二級作家士免許とかはない。仮にXでポストを投稿しているだけ、甚だしくは一文字も書かずに妄想しているだけでも、「オレは作家だ」と名乗ればあなたは作家です。

……ただ、これを客観的に認められる肩書きにするなら、がぜん難易度が高くなります。何らかの商業媒体での掲載原稿や、著書はほしいところ。当然、記事1本よりも著書1冊の方が値打ちが高い。なので著書は大事です。

とはいえ、「10年前に1冊だけ出た」では、あまり格好がつきません。やはり名の通った出版社から継続的に著書を刊行していないと、世間的に「プロの現役作家」とは見られにくいわけです。

これは作家を推す側の視点から見れば、「推しが継続的に本を出せるようにする」が、最も効果的な応援であることを意味します。

じゃあどうするか?

出版直後は紙の本を買おう

最近は電子書籍の時代です。私も購入する本の7割くらいは電子です。しかし、単に著者の都合だけで声を大にして言いたい。

新刊は発売週に紙で買ってくれ。

これは、日本の出版業界の事情が関係します。本来、書籍の印税は価格の10%。なので、

初版部数(3000部とか1万部とか)×お値段×0.1(10%)

こちらが初版出版時に作家が得るお金になります。細かい仕組みは省略しますが、初版で刷られた本が売れようと売れなかろうと、まずこの金額が印税として入ってきます(小規模な出版社では印税率が8%だったり、実売部数分しか印税をくれなかったりしますが、ここでは通常の事例について話していきます)。

……ということは、初版で数万部刷って、本がちょっとしか売れなかった野村沙知代ヌード写真集みたいな大爆死事故が起きても、初版印税分のお金は入る。作家っておいしい!

孔子像を手にする野村ご夫妻

孔子像を手にする野村ご夫妻

とは、なりません。

なぜなら、紙の書籍の売れ行きは、出版社の中の人たちが横断的に見られる閻魔帳(作家側は見られないデータ)に記録されています。なので、爆死すると次の本の初版部数が減る。もしくは本自体を出せなくなる。

小説などで、ペンネームを変えて再デビューする作家がいるのもこういう事情です。たとえば「安田峰俊は実売300部も売れないアカンやつ」とか記録が残ると、この名義での挽回はほぼ不可能、作家として生きる道なし。中国の失信人制度みたいです。

爆死させないためには、初版部数がちゃんと売れないといけない。売れると重版(増刷)します。しかし、本が売れているかの判断は刊行後かなり早期に下される。なので、推しの本は発売週に紙で買うのが正解、となります。

いまそこにある恐怖

なお、出版社には「営業」という方々がおられます。

肩書きは営業とはいえ、彼らの仕事(の一部)は本を刷らせないこと。詳細は省きますが、出版社の多くは初版部数を削って刊行点数を増やす経営戦略を採りがちで、村上春樹先生みたいな大作家の著書以外は、1冊の価格を上げつつ部数を削ることが合理的選択となっています。

つまり、小部数で大量のタイトルを刊行、たまたま大ヒットした1冊で儲ける多産多死戦略です。そして、各社で閻魔帳を片手に作家を淘汰する恐怖の獄卒。それが営業さんです。

「安田峰俊の前の本は初版1万部で最終的に3万部売れた」となりますと、彼らは残念ながら私の初版部数を減らせません。しかし「実売が5000部」となれば、営業さん大チャンス。「この人の次の本は内容にかかわらず初版4000部で!」と目をキラキラさせて主張できます。結果、ワイは死ぬ。

……いや、先方にも事情があるのは知ってるんです。大変なんだと思う。

ただ、直接「ごめんね」とか言ってくれたら気持ちがわかるんですが、作家は基本的に彼らと会う機会がない。顔も知らぬ言葉も交わさぬ人々に、私たちの側が「そう感じる」のは仕方ないことなんです。たまには口に出して言わせてくれ。言論の自由だ。

出版業界地獄之圖

出版業界地獄之圖

──私怨を垂れ流しました。話を戻します。

紙の本の売り上げがよければ、次の出版企画が通ります。部数もあまり減りません。これを支援する行動として。

  • あちこちの図書館にリクエストする(そのぶん売れる)

  • 布教用にもう一冊買う

  • SNSでつぶやく

  • SNSで作家をフォローする

  • Amazonのレビューを付ける

これらも有効です。SNSでのフォローは、編集者が次の出版企画時に「著者のフォロワー数は何人」とプレゼンするから。またAmazonレビューも、まだ買っていない人の購買意欲を刺激するので大事です。

紙をみんなで買い支えていると、1〜2週間して作家が「重版しました!」とポストします。おめでとう、作家ちゃんの生命は救われた。次回作にご期待ください。

時間が経ったら電子を買おう

いっぽう、電子を買うのは「その本が書店で売れなくなってから」です。大ヒットしていない大多数の本は、通常は刊行後1〜3ヶ月ほどで動きがなくなり、重版の可能性もほぼ消えます(動きの有無はAmazonランキングとかでなんとなく読み取れます)。

通常、多くの出版社の印税は、初版・重版ともに「刷ったら」作家に払われる仕組み。逆に言うと、もう刷らない(ほぼ重版しない)状態で、新たに1冊や2冊が売れたところで、作家には1円も入りません。もちろん、もっと売れれば刊行数年後でも再重版というケースがありますが、かなり稀です。

いっぽう、電子書籍の印税は1冊ごとの売り上げが直接作家に支払われます。なので、2年前の本とかは電子で買った方が作家にお金が入りやすくなります。

※注.KADOKAWAのように100部単位の小部数増刷をやっている会社が版元である場合は、紙で買い続けてOKです。これとかこれは紙で買いましょう。

なお、著者的には困るのが「中古で購入」です。これは手元に1円も入らないうえ、データ上の販売実績にすらプラスされない。もちろん消費者として安く買いたいのは当たり前ですが(私も中古で買うことあるし)、「推したい相手」の本は出版社にデータが残る買い方にしましょう。

で、おまえ今回なんでこんなに必死なの?

今回の新刊、安田は普段にまして著者営業をかけています。今夜(8月19日水曜日)夜9時からはVTuberの旅野そらさんの生配信に出る。ゆるい、声めっちゃかわいい。でも、本が売れたら俺が💗萌え萌えボイスなのか。どうすりゃいいんだ。

旅野そら🤍元戦場カメラマンVTuber
@tabino_sora__
明日19日の配信で、新刊出版記念で以下の企画やります<br />
<br />
\紙書籍が売れるほど、安田峰俊のNGが消えます/<br />
<br />
📕秘密暴露<br />
🚨初体験告白<br />
💥某有名芸能人との実話<br />
📚未発表ネタ公表<br />
💗萌え萌えボイス<br />
<br />
大宅賞作家・安田峰俊さん…どうなっちゃうのー!?<br />
<br />
買った報告はスクショ付きでこのポストへのリプで!
2026/08/18 21:41
21Retweet 91Likes

あと、Xで「書籍購入のスクショ送ってくれたらDMでどんな質問でも答えます」期間限定キャンペーン中。さいわい大人気で、中国旅行の行き先から婚活相談までいろんな話が来ていて、答える側もちょっと楽しい。おかげで本が売れています。ありがとうございます。

安田峰俊
@YSD0118
【温馨の知らせ】<br />
『エンド・オブ・スカーレット』を紙の本で買ったスクショやレシート写真をもらえれば、DMでどんな質問も答えます。現在まで出た話<br />
・婚活の相談<br />
・中国旅行相談<br />
・有事の備え<br />
・在日中国人とのマチアプ<br />
・中国現代美術について<br />
・台湾有事あるの??<br />
<br />
期間延長:8/25 18:00まで!
安田峰俊@YSD0118
突然始まる悩み相談と、それに全返しする安田 https://t.co/xJSzjjadVh
2026/08/19 08:20
0Retweet 7Likes

なぜ、私はこんなに必死なのか。理由は創作への熱い思い……。の前に、生存です。

普段、私はノンフィクションでは同業者比で初版部数がそこそこ多い模様です。しかし、今回は小説。なので初版部数を普段の3分の1くらいに削られた。売れないと非常にやばい。だって。

「イヤッホォォウ!! 安田峰俊の小説、初版●●部なのに実売たったの××部だァ! これは次のノンフィクションの初版部数も××部以下でいいッ! いいよねッッ!!」

出版社の営業さんが、超ハイテンションで部数会議に向かう姿が見えます。君の笑顔は僕の不幸。ワイは死ぬ。

……でも知ってます。そもそも今回、ビジネス的に間違ってるのは私です。

別ジャンルで小説なんか出すのが悪い。逆に言うと、自分の商売がいちばん安定する方法は、認知戦とか台湾有事とかの売れ筋バズワードで似たような本を何冊も書き続けることです。これが一番固定客がついて、賢い。

ただ、私は落ち着きがなく、同じことを続けるのが苦手です。中国を描くために、いきなり恐竜の本を書くとかtheLetterをはじめるとか、あらゆることをやりたい。そこで今回は小説なんです。でも死にたくない。『エンスカ』は売らねばならない。

昔のジャンプを唐突に思い出してみた。

昔のジャンプを唐突に思い出してみた。

まあ、私の話などどうでもよろしい。とにかく、相手が安田じゃなくても推しの作家がいるみなさん。紙に書いて自宅に貼りましょう。

「新刊は発売週に紙で買う」

「刊行後しばらく経った本は電子で買う」

愛で地球はあんまり救えない。でも、作家は救えます。

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