台湾「野獣先輩展」のたまげた背景
タイトルで意味がわからない方はブラウザを閉じましょう。今月半ばから、Xで台湾のとあるイベントが話題になっています。こちらです。
どうすりゃいいんだ。なお、会場スペースを提供したアダルトグッズ店・情趣夢天堂のHPによると、イベントは下記の立て付けで開催されています。
主催:黑面龍動漫潮流工作室
特別協賛:情趣夢天堂(※会場スペース提供)
宣伝協力:下北澤新聞台、迫真國防部洞八的裏技
近年、野獣先輩ネタは日本のネット空間で第何回目かの大ブーム中です。先日、児童公園の近くを通ったら近所の小学生ドパガキ男児が「いいよこいよ!」とか叫んでいて頭を抱えたくなりました。
で、日本で流行するネットミームは漏れなく輸入される台湾においても、やはりブームです。むしろ、世間の一部では元ネタへの懸念や人権的配慮も存在する日本に対して、台湾から見た本件は「しょせん外国のこと」。いっそう情け容赦なく、野獣先輩が公共圏に飛び出しています。
たとえば下記は現地紙『自由時報』のスクショです。日本で言えばおおむね朝日新聞くらいのポジションの大手紙ですが、編集部はなにを考えているのか。
台湾はアジア圏ではじめて同性婚を認めたり、トランスジェンダーのオードリー・タンが入閣したりと、LGBTQの人権に配慮する(という対外ポーズを発信している)国ですが、悪ふざけは別腹の話。今回の野獣先輩展も、こうした文脈に位置付けられるのでしょう。
会場の意外と深い闇
野獣先輩展は、台北市内にある「情趣夢天堂」というアダルトグッズ店のスペースを借りる形でおこなわれています。
立地は台北随一の電脳街&オタクタウン。昔の秋葉原ラジオ会館っぽい電脳市場ビル「光華商場」のすぐ近くです。ホンハイ(シャープの親会社)が作った巨大電脳ショッピングモールの三創生活園区や、ドン・キホーテがテナントに入る希望園区があるなど都市の再開発も盛んないっぽう、古いガジェットショップやオタク店舗も多数ひしめいている楽しい街です。

ドンキ忠孝新生店。今年1月17日、安田峰俊撮影
そんな場所で商売している、イベント会場の情趣夢天堂ですが、親会社は事可得公司といいます。調べると以下のようなニュースが出てきます。
登録者100万人超のYouTuber「志祺七七」が、未成年者の映像や本人の同意なく撮影された映像を販売した疑いで起訴された「事可得公司」傘下のアダルトグッズブランド「情趣夢天堂」と過去にコラボしていたことが、ネットユーザーの調査で判明した。
事可得公司は、「創意私房のコピー版」とも評された「5F自拍網站」を運営していたとされる。同社関係者らは、クローラーソフトで動画を収集し、未成年者の映像や盗撮映像を販売した疑いがあり、約2年間で1571万台湾ドル以上の利益を得たとして、2025年に起訴されている。
企業として黒塗りすぎた。
なお現地検察のHPによると、捜査当局は上記の調べにあたり、現金85万台湾元あまり、仮想通貨のUSDT4万ドルあまり、さらに企業の口座内の550万台湾元余りなどを押収しています。
光華界隈に通じる台湾オタク筋の話によると、同社はもともと日本の海賊版AV販売を近年まで(つまり、台湾社会が版権問題にうるさくなってからも)堂々とやっていたとのこと。その延長線上に、上記の違法動画販売行為がつながっているようです。
ここからはあくまでも一般論です。台湾において、明らかに違法な商売を長年堂々と営める方々は、それなりの人脈をお持ちのことも多い傾向があります。あくまでも「傾向」ですが、わんぱくな方々もそれなりに多くいらっしゃいます。
たとえば2018年11月には、台湾で海賊版映像の拡散対策業務をおこなっていた日本のAV業界の知財団体「IPPA」(現在はCCBUに改称)の幹部を含む日本人2人が、覆面黒服の台湾人男性3人から待ち伏せのうえ金属棒で襲撃されて1人が負傷する事件が起きています。
当時の現地報道では、この襲撃の背景について、台湾側の海賊版販売業者による報復の可能性が指摘されています。そうした物品を販売していたアダルトグッズ店の店長が、チンピラに1人あたり5万台湾元(約25万円)の報酬を渡し、IPPAの幹部らを襲わせた、という話も伝えられています。
野獣先輩展運営側無罪説
会場側はいろいろ闇が深い。しかしながら、今回のイベント自体の運営元である「黑面龍動漫潮流工作室」については、「怖い人とは無関係なただの淫夢厨」という、台湾オタク筋の信頼すべき情報を聞いています。
会場の並ならぬ再現度を見ても、そんな気はせぬでもありません。こんなひどいもんをわざわざ作って展示する人は、ダメな人ではあっても悪い人じゃない気がする。
そもそも台湾は、ダークな世界とカタギの人の生活空間の境目が異常にあやふやな国です。本邦でいう広域指定暴力団レベルの組織の親分の息子が普通に最大野党・国民党の国会議員をやっていますし(なお、与党の民進党にもそういうファミリールーツの政治家がいる)。
なので、普通の人でもイベント時に怪しげな会社のスペースを借りるくらいは普通。そもそも社会の気質として、日本人ほど論理的・倫理的な一貫性にこだわらないところもあります。野獣先輩展の会場選びは、そうした角度から説明できる部分もあるでしょう。
疲れても黒塗りの高級車と衝突しない、ぬるく共存している。それが、あなたの知らない台湾というものです。
特殊詐欺の扉も会場のすぐ近所に
ところで、私は今年1月の台湾取材で、ミャンマーの中華特殊詐欺拠点から流出した中国語のロマンス詐欺マニュアルを発掘しています。これは中国大陸系のグループによるものですが、ターゲットは台湾人女性。言葉巧みに相手を恋の罠に絡め取り、仮想通貨のUSDTを用いた架空投資に誘導する仕組みでした。
で、この詐欺マニュアルのなかでは、台湾元をUSDTに両替する場所が指定されていました。当然、私は台北市内にある当該住所に行ってみたわけです。
……場所、やっぱり光華商場の近所。
ドンキの隣です。
もちろん、こちらの件は上記のアダルトグッズ店とは無関係です。ただ、とにかく日常のすぐ隣に広大な闇が口を開けている。怖い。
ちなみに特殊詐欺は、そもそも台湾の黒道(ヤクザ)が発明した手法が中国大陸に伝播し、それが東南アジアで大発展したものです。実は台湾の闇社会は、昨今の特殊詐欺問題において、かなり重要なプレイヤーの一角を担っていたりもします。
ヤクザだよ(便乗)
さて、野獣先輩から話が広がり過ぎたので強引にたたみに入ります。『エンド・オブ・スカーレット』は相変わらず好評発売中です。台湾チアガールがタイの田舎街で人民解放軍のロボット犬101匹と戦う、ハートフルで常識的なライトノベルです。
この台湾チアガール、彼女の推し活オタクの親父が黒道(ヤクザ)で、闇接待を断ったことでミャンマーの特殊詐欺拠点に売られてしまった、という作中設定になっています。
小説なのにアジアの現実しか描いていない、迫真のリアリティ。壓力馬斯內。
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