中国の大学日本分校のオープンキャンパスにガチで行った話

「ウチは統一戦線工作部の後ろ盾があるんですよ!」
安田峰俊(Minetoshi Yasuda) 2026.07.26
誰でも

最近、文春オンラインにこんな記事を出しました。

辺野古関連はアクセス稼げるので冒頭で言及していますが、重要なのは2記事目と3記事目です。

あと、月曜くらいにやはり沖縄関連で、『週刊ポスト』(小学館)で大きめのスクープが出ると思います。

***

で、それはそれとして。今回は表題の件について対談形式でお送りします。AIで設定したおっさん記者の田辺、仕事できるインタビュアー設定だったのにさっぱり仕事できない(現在のAIの音声機能ではそこまでひねった会話はできないっぽい)。なので早期退職肩叩きだ。グッバイ田辺。

当面、AIは単純に相槌担当と割り切ります。ではどうぞ。

中国の名門大学日本分校開校ラッシュ

────中国の大学の日本分校って、実際どんな感じなんですか?

安田 2019年ぐらいから、中国の大学が日本に分校を出す動きが結構盛んになってるんですね。北京語言大学とか深圳大学とか、いま日本国内に4校ぐらいあるんです。これ、背景にあるのは2016年に中国教育部が打ち出した「共建『一帯一路』教育行動」とかいうやつで、習近平政権が教育の「走出去」を……。

──わかりやすくお願いします。

安田 平たく言うと、これまでは学生を海外に送り出す側だった中国が、もう強い国になったので自国の教育機関を海外に進出させて、中国の素晴らしさを世界に広めよう的なことを言い出したんです。10年前に。

で、それまでも教育の海外輸出は、例の有名な孔子学院があったわけですが、孔子学院は海外の有名大学を間借りというか背乗りというか、現地有名大学のブランド名に乗っかる形で展開していた。対して、2016年の一帯一路教育行動では「中国の名門大学が海外に分校を作る」という形に進化したわけですね。で、2019年ごろから日本分校がいくつもできた。

余談ながら、私は孔子学院も体験受講していて、『中国vs.世界 呑まれる国、抗う国』という本にルポが入っています。もう大学名を言っていいと思いますが、桜美林大学の孔子学院、マジで良かったので中国語を学ぶならオススメです。勉強になりましたよ。

──なるほど。で、今回は中国の某大学の日本分校のオープンキャンパスに潜入取材に行ったと。

安田 いや、潜入取材じゃなくてガチのつもりだったんです。博士号ほしくて。いまから10年後ぐらいのキャリアを考えると、博士を持っていたほうができることが増えるよなと。

ただ、私は学部も修士も中国史です。『大漢和辞典』を引きながら清代の奏摺とか地方志を読むのって楽しくて好きですが、とはいえブランク20年でガチ東洋史学をやりなおすのは正直現実的じゃない。それなら社会学系の別分野で、中国語を使って博士を取るほうが面白いんじゃないかと思ったんです。

中国の大学の日本分校なら、日本国内にいるのに中国語で教育が受けられて学位をもらえる。本気でアリじゃないかと。いまさら学閥にこだわる立場でもないですし。だから、ちょっと前に本気でオープンキャンパスに申し込んで行ってみたわけです。

──ほう。

安田 でも、私、中国当局にマークされている可能性がゼロじゃない立場です。週刊誌で中国の対沖縄の統一戦線工作を書きまくってますし、次の本なんか小説で中国を思いっきり崩壊させてますし。そこで、中国某大学の日本分校のオープンキャンパスに行く前にチャッピーに相談してみました。

そしたらチャッピーが心配しまくって、「あなたの場合は危険だ」「電話番号やメルアドから他の情報を推測される可能性があるので普段使いのものとは分けよ」「校内Wi-Fiには不用意に接続するな」「学生専用アプリをDLするとバックドアで情報を抜かれる可能性がある」とか言い出した。どんな入学準備だと。

博士号の取得とは大変な道のりである(大変の意味が違う)

博士号の取得とは大変な道のりである(大変の意味が違う)

あと、知り合いの中国在住の日本人博士からも、「最後に博士論文を見るのは中国本校だから、君が『政治的に好ましくない人物』と判断されたら学位が出ない可能性があるよ」と言われまして。

「勉強についていけるか」じゃなくて「政治的に正しいか」が最大の懸念。こんなシュールな大学院受験がこの世にあるのか。

びびるほどユルかった

──で、実際に某校のオープンキャンパスに行ったらどうなったんですか?

安田 それがめっちゃユルかったんですよ。放棄された植民星の基地みたいな雰囲気で。全体的に。

まず、場所がいわゆる「大学キャンパス」という感じじゃない。某ラブホ街の裏手にある雑居ビル……。というか、普通の会社が入ったビルの2フロアだけが「大学」になっている。入口には普通の事務机が置いてあって、日本人の職員さんが「オープンキャンパス参加の方は名前にチェックを入れてください」と、A4の紙の前で受付をしていました。

私が行った日は30人ぐらい来ていたんですが、名簿を見ると日本人は私一人、博士希望も私だけです。あとは半分ぐらいがネパール人、残りはベトナム人という感じでした。みんな学部希望です。説明を聞いた感じ、難しい入学試験はほぼなさそうで、出願すれば通りそうな雰囲気でした。

ガイダンス中に寝ているネパール人がいたりして、「これは純粋に学問だけを目的に来ている人ばかりではなさそうだな」という印象を受けました。もちろん真面目に勉強する学生もたくさんいるとは思いますが、日本で滞在資格を得るため、とりあえず学校に所属するという目的の人もいるんじゃないかな、と。一部の私大や専門学校と似た空気感です。

一番の売りは中国語学科で、中国語を学べる。他の専攻では、専門分野を中国語で授業を受けられる仕組みになっています。つまり、日本国内にいながら中国語で教育を受けて、中国の名門大学の学士・修士・博士号が取れる。雰囲気のユルさはさておき、魅力的な部分もある。この点はフォローしておきます。

ちなみに、私がオープンキャンパスに行った先は池袋の北京語言大学日本分校ではないです。あそこはHSKの本場で、日本人学生も多いですし。しっかり勉強している人が多いイメージがあります。それ以外のどこかですね。

──なるほど。

安田 博士課程希望者は私一人だったので、中国人の先生が個別面談をしてくれました。話を聞くと、パンフレットには博士課程も書いてあるんですが、学生が少なすぎて実際にはほとんど機能していないと。

普段は中国の本校の先生がリモートで指導してくれるみたいですが、夏季集中講義などで本校の先生が中国から来る。でも、学生が一人や二人では割に合わないので開講できない。十人、二十人集まらなければ授業自体が成立しない。だから現状では、博士課程は実質無理です、という話でした。

──ひとつの専攻で博士課程の大学院生を20人集めるのは、たとえ既存の大手私大でも大変なのでは……。

安田 さらにもう一つ問題がありました。彼らは当初、日本だけで大学院教育を完結させる構想だったそうですが、中国教育部の方針で、結局1年間は中国本校へ留学しなければならないらしい。

いや、それ面白そうだし、1年くらいなら留学してみたいですよ。でも私、そもそも中国に入国できんのか、という問題がある。学問の道は厳しいのです。

ウチはしっかりした大学です。だって……

安田 でも一番面白かったのは、そこじゃありません。先生も職員さんも、どうやら私が何者なのか、本気で知らないみたいでした。普通のオープンキャンパスの参加者だと思って話してくれたんです。

その先生が面談中に、「うちはすごくいい大学です」と胸を張る。まあ、それ自体は本当なんですよ。日本に分校を出している中国の大学はどこも名門ですから。

──それは事実ですね。中国本土ではトップクラスの名門校です。

安田 それで先生が続けて言うんです。

「うちは省政府と統一戦線工作部がバックアップしているので大丈夫です」

だから「後ろ盾がしっかりしています」と。しかも、それを「僕のパパはパイロットだぞ」みたいな、めっちゃ誇らしげな顔で。

なお解説すると、統一戦線工作部は中国共産党の協力者獲得部門で、インテリジェンス組織です。

──それはセールスポイントなんですか??

安田 彼らの価値観では統一戦線工作部は何も怪しい組織ではない。偉大な党と国家を支える正当な機関です。だから、日本人がその名前を聞いてどう受け止めるかという発想自体がない。

実はこういう経験、本業の取材でも何度もしています。

統戦系の華人団体に突撃しても、「うちは習近平さんと縁があるんですよ〜!」とか、「この部門がバックアップしているので安心です!」とか、日本の特定公務員が聞いたらひっくり返るような組織名を、本人たちはものすごくポジティブに話す。

つまり彼ら自身の世界観では、それは誇るべき肩書きなんです。今回もそれを目の前で再確認しました。中国の特色あるゆるゆるインテリジェンスです。

岸辺露伴かよ!

──現場はそういうものなんですね。

安田 しかし、今回は本業のことはなにも考えてなくて、普通に(マジで)中国の知を望む一市民として行動していたのに、なんでこういうのに当たるんでしょうね。ジョジョ4部みたいですよ。スタンド使いが街を歩いてるだけでジャンケン小僧とか鉄塔の男とかに会ってしまうやつ。

さておき、某分校のあのユルい雰囲気を見ていると、「もしかすると俺、この人たちから最後まで何者か気づかれず中国へ留学して、普通に統戦部の大学で博士号を取れちゃう可能性も30%ぐらいはあるんじゃね?」とは思いました。

──じゃあ、進学するんですか?

安田 いや……。見たところ学部の学生数も少なそうですし、寝ているネパール人を見ると退学者もいそうです。将来的に学校自体が「割に合わない」と日本分校を撤退させたら? あと、日本側の運営会社は華人系の企業グループなんですが、ここがマネロンとか不法就労斡旋とかで潰れたら?

途中で閉校したら学費は……。まあ、中国の常識からすると、「絶対に返してもらえる」と言い切れないところはありそうです。あと、そもそも学位もらえないとなると困る。何百万円も払って、そのリスクを負うのはさすがにギャンブルだろうと思って、結局やめました。

──妥当な判断です。

安田 博士号自体は取ってもいいなと思うんですけどね。実績を生かせるメディア研究あたりが一番現実的かな、と。台湾の大学も興味がありますが、国内を完全に離れるのはちょっと難しい事情もあります。仕事忙しいですし。なかなか悩ましい。

どこかいい大学をご存じの方がいたら、ぜひ教えてください。統戦部の大学日本分校以外で。

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