「中華圏の大問題」になっていた沖縄県知事選

ただの知事選のはずが中国と台湾を巻き込む壮絶国益バトル
安田峰俊(Minetoshi Yasuda) 2026.09.14
誰でも

ご存知の通り、9月13日の沖縄県知事選は古謝玄太さんが40万票以上を獲得、現職の玉城デニーさんを大差で破りました。選挙結果の分析はいろいろあるでしょうが、それは中国ルポライターの私の仕事じゃありません。だって私、こういうときにまず中国と台湾を見るからです。

今回の沖縄県知事選は、非常に「変な選挙」でした。理由は中華圏(欧米メディアの中国語版含む)からの異常な関心の高さです。

選挙後にこれだけ中国語で論評が出る日本の首長選なんて、都知事選でもまずないぞ? この24時間で出た興味深いやつを、以下紹介していきましょう。

敗れた駒に興味はない中国

↑題名訳「自民党が支援した古謝氏の沖縄県知事選勝利、日本の南西方面での軍備増強を加速させ、地元の分断を深める可能性」 中国『Global Times』

『Global Times』(環球時報)は、みんなご存知の党中央機関紙『人民日報』傘下紙。中国有数の対外プロパガンダ媒体の言説です。人民日報や新華社ほどの重みはないものの、ほぼ当局見解に近い発信をおこなっています。しかも今回は、中国語の元記事は存在せず、なんと英語版のみ。海外に伝えたい内容ってことです。気になる内容はおおむね以下の通り。

  • 古謝勝利によって、日本政府による沖縄への防衛力配備は進みやすくなる

  • 日本の「専守防衛」姿勢はさらに崩れる。西南諸島における軍備増強について周辺国(=中国)は警戒すべき

  • ただし古謝勝利=沖縄県民による全面的な基地容認ではない。物価高・円安・所得など経済問題が基地問題より優先された。

  • 「オール沖縄」の高齢化、若年層の保守化、勢力低下も玉城氏の敗因である

と、安全保障に関心を置いた分析。これまで散々「友好」してきたデニーさんの敗戦にもっと同情してやれよと思うのですが、彼らは敗者の気持ちに寄り添わない。世界に向けて今回の結果を報じつつ、「軍国主義化する日本」(新型軍国主義)という中国のナラティブをとりあえず宣伝。今後のことはまた考えていくわけでしょう。

まあ、デニーさん側も24年夏に福建省の超偉い人が来たときに(たぶん天然で)フジロックに行って歓迎レセプションをブッチ。中国大使が来た時も同じくブッチ……。と、先方の顔を図らず潰しまくって中国側に無駄な不信感を与え続けてきました。

中国としては、天然なのか高度な外交的嫌がらせなのか、デニーさんの腹を読めず不気味。思い入れを持てる相手ではなかっただろうとは思われます。

「親中デニー負けた!」台湾大喜び

↑題名訳「古謝玄太が沖縄知事に当選、“台湾有事反対”候補を破る」 ドイツの国際公共放送『ドイチェ・ヴェレ』中国語版

一見するとドイツ発の報道ですが、実際の執筆者は台湾の準国営通信社である「中央社」特派員の周依恩さん。政治体制が違うので安易な比喩は禁物ですが、大陸政府見解に近い『Global Times』に対して、台湾側の公的言論のメインストリートに近い立場の人からの意見といえなくもありません。こちらの内容は以下の通り。

  • 玉城は「台湾有事=日本有事」に反対していた

  • 古謝勝利によって日本中央政府と沖縄県の対立が緩和、高市政権の第一列島線(中国の太平洋進出を制約する地理的障壁)での軍事建設がやりやすくなる

  • 古謝知事なら、沖縄県が所有・管理する空港や港湾が軍事利用指定を受け入れる可能性が高まる

  • 高市政権による安保三文書改定・西南諸島防衛強化の文脈で見るべき

やはり安全保障文脈。当然、台湾としては古謝知事のほうが自国が守られるわけですが、なかなか生々しい話です。

なお、往年のデニーさんは台湾に対して明確に塩対応(特に第2期)を繰り返していたので、台湾からは評判がよくありませんでした。「“台湾有事反対”候補」とか、台湾記者の手でドイツメディアに刺激的な見出しで掲載されたのも、一種の意趣返しだったのかもしれません。

もっとも、この記事に限らず台湾メディアは最近、ともすれば日本(沖縄も含む)の選挙結果を「親中と親台のどっちが選ばれたか」で単純化しがちな傾向も目立ちます。日本でも、台湾の選挙について「親日反中の民進党が勝った、反日親中の国民党が負けた」という基準だけで論じたがるテレビや週刊誌の報道が多くありますが、お互い似たようなもんです。

親中派沖縄県知事連任失敗!という見出し。

親中派沖縄県知事連任失敗!という見出し。

実際に票を投じる現地の人たちは、トップが親中かどうかよりも経済とか社会問題対応とかで選んでると思いますけどねえ……。

玉城県政は中国の統一戦線工作に利用されてきた

↑題名訳「沖縄選挙で政権交代:古謝玄太がもたらす暮らしと地政学の新局面」 台湾の国営国際放送『Rti』

こちらは台湾当局系の媒体ですが、寄稿者の鄭仲嵐さんは日本留学歴やnippon.comの記者も担当している日本通。ゆえに記事では、かなり丁寧に沖縄の地域性や選挙の背景を説明しています。基本的に優等生的な記事に見えるのですが、中盤からニヤッとする話が出ます。

  • 玉城県政下で進んだ「地域外交」について、北京の対沖縄統一戦線工作と「客観的に一定の共鳴を形成した」とかなり踏み込んだ言及

  • 2023年7月のデニー訪中と李強首相との会見、中国での「琉球国墓地」訪問を挙げつつ、その前月に出た習近平の琉球発言や中国プロパガンダメディア(それこそ環球時報とか)の「琉球カード」報道と結びつける説明

  • 玉城氏が沖縄を米中日の「平和の緩衝地帯」にしようとした地域外交は、結果的に中国による日米同盟分断の統戦工作に利用されやすいものだったと批判。

なんだか鄭さん、安田の沖縄関連記事を読んでそう。機会あったらお友達になりませんか。

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他にもいろいろありますが、大変なのでリンクだけ。沖縄の選挙が話題になりすぎだ。以下、中国大陸&香港。

台湾もまだまだたくさん。

県知事選は「中日による琉球争奪戦」

上記の最後に紹介した記事は、選挙前に発表された論考ですが興味深いところでした。

だって執筆者が林泉忠先生。すなわち大陸生まれ香港育ち、日本で東大の高原ゼミを出て琉球大学で勤務歴を持つ(いっぽうで大陸や台湾の琉球研究界隈ともそれぞれ関係が深い)という、華人系の沖縄問題論者としては最もハイブリッドで現場をご存じの識者です。もちろん日本語も堪能。

そんな彼は、今回の沖縄県知事選を、台湾紙『自由時報』にて以下のように評しています。

表面的には地方自治体の首長選挙にすぎない。しかし、東アジア情勢のなかに置いてみれば、その意味はすでに沖縄県政の範囲を超えている

日本は近年、南西諸島の防衛力を継続的に強化し、「台湾有事」も安全保障政策に組み込んでいる。その一方で、北京はしきりに「琉球カード」を切っている。

したがって、今回の選挙は中日両国の直接対決ではないものの、両国による地政学的なせめぎ合いが投影されることは避けられない。ある意味での「中日による琉球争奪戦」と呼ぶことも、まったく根拠がないわけではない。

このように指摘される構図に対して、たぶんデニーさんのみならず古謝さんも、それほど強い自覚はなさそうに感じます。今回は本土ネット民の大量介入によるネットバトル選挙という非対称戦が戦われはしたものの、彼らにとっての県知事選は、究極的にはやはり「地元の地方選」でしかなかったはずでしょう。

ただ、中国も台湾も、まったく別の目で沖縄を見ています。

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