中国の”人生が詰んだ人”10年史 三和ゴッドから「電子ペット人間」まで
さて、本当は第2回は中国の沖縄統一戦線工作の話題にする予定でしたが、本編の原稿がまだ世に出ていないので(来週月曜くらいに出ます)、別の話題にしましょう。
なんと中国共産党の最高学府の中央党校系列のイデオロギー工作が沖縄の市民団体に! ほか、すごい話がてんこ盛りなのですが、これの初出はさすがにちゃんとした商業媒体でなされるべきです。ちゃんと問題提起されないと、本気で危ない。
なので、今回お伝えするのは中国の“人生が詰んだ人”の10年史です。というのも最近、Xの中国界隈で以下のようなnoteの記事が話題になっているからです。
どういう内容かというと、中国の『南方人物週刊』の記事「“六毛网吧”里的“挂壁人生”」の内容を紹介、解説したもの。AIにぶちこんで300字に要約した大意は以下の通りです。
貴州省遵義市の「六毛ネットカフェ」は、最安で1時間0.6元。仕事を辞めた若者や日雇い労働者が長期滞在し、椅子で眠り、ゲーム内通貨や装備を売って一日数十〜数百元を稼ぐ。
店主は夜通しライブ配信を行い、視聴者の投げ銭で利用者にコーラ、ソーセージ、カップ麺、タバコ、宿泊費やネット料金を配る。利用者はカメラに向かって立ち上がり、投げ銭をしてくれた「大哥(アニキ)」に長い祝福を述べる。なかには歌を披露して600元分の料金を得る者や、自らを「電子ペット」と呼び、食事をねだる者もいる。
工場勤務や配達は「きつい」と避け、ここを生活拠点にする人々の姿を追ったルポ。
悪趣味すぎる。嫌な意味で中国らしい話です。もちろん、中国はいい部分もちゃんとあるはずの国なんですが。
いっぽう、「上海在住のえいちゃん」のnote記事にもあるように、似たような立場の人たちは約10年前にもいました。その名は「三和ゴッド」(三和大神)。彼らの存在を日本に最初に紹介したのは、他ならぬ私だったりします。
書籍『さいはての中国』で背景まで書いているので、興味がある方はこちらをお読みください。とりあえず、雛形になった文春オンラインの記事はこちらです。
かつて深圳の龍華にあった、限界ネトゲ廃人だらけの街。そこに集う人々。彼らみたいな人たちは、10年後の中国で、詰んでしまった人生そのものを切り売りされる「電子ペット」になっていた。
という話題で、AIで生成したおっさんインタビュアーの田辺さん(50代)を話し相手に、以下に音声対談の様子をお送りします。
γ-GTP値が高いと言われました
──どうも。おっさん記者の田辺です。この前、健診でγ-GTP値が高いと言われました。
安田 AIなのに飲み過ぎを注意されるとは、田辺さんも苦労が多いですね……。さておき、まずは昔の三和ゴッドの話からいきましょうか。
──はい。当時、現地で何を見たんですか。
安田 2017年6月ですね。小学館の『SAPIO』の仕事で、広東省深圳の龍華に行ったんです。龍華は製造業の工場がものすごく多い地域で、エプソンとかフォックスコンとか、スマホや各種の電子製品を作る巨大工場が集まっていた。
その龍華に「三和人力資源中心」という求人施設がある。施設の中は、わかりやすく言うとRPGのギルドみたいな感じ。「エプソンの工場でライン工。時給⚫︎⚫︎元」みたいな求人票がベタベタ貼ってある。求職者はそれを見て、短期の工場ライン労働に行くわけです。
いわば日雇い地域、「ドヤ街」です。でも、昔の日本だと西成みたいに工事現場の仕事が中心でしたが、当時の中国では電子製品の製造現場に日雇いで入る。いわばサイバー日雇い地域ですよね。三和ゴッド(三和大神)は、その周辺に集う人々を指す言葉なんです。

意識の低い世界だった。当時、三和付近で安田撮影
──そこで暮らしていた三和ゴッドは、どんな人たちだったんですか。
安田 30代前後の男性が多かった。1週間とか2週間だけライン工をやって、ちょこっと金を得る。三和の近くには1泊50元とかの超絶安い宿があって、そこに泊まる。さらに1時間1元もかからないような超安いネットカフェがあるので、そこで延々とネトゲの『リーグ・オブ・レジェンド』をやる。
タバコを吸いながら3日ぶっ続け、飯は格安の麺。場合によっては1週間ぐらいグダーッとネトゲをやり続けて、手元の金が完全になくなったら、またライン工に行く。そういう世界でした。
ちなみに関係ないですが、拙著『八九六四』に登場するスーパータクシー運転手・マーさんともここで落ち合いました。で、深圳郊外の山の公園で話を聞いたっけ。そのときの証言を本にしています。
一度負けると沈む人生
──現場で「これは象徴的だ」と思った光景は。
安田 ネットカフェを覗き込んだときですね。もうサイバーディストピアというか。ボロい扇風機が回る店内で、男たちがタバコを吸いながら、ずらっと並んだパソコンに吸い寄せられている。そこで話を聞いた人たちは、中国の貧困層のなかでも、本当に何も持たない人々でした。
田舎生まれで、両親が出稼ぎ、祖父母に育てられたけど、実質的には半分放置。当時の中国で社会問題化していた「留守児童」です。教育程度も高くないし、都会に出てもうまくいかない。体を壊したり、長く働けない事情があったりして、最後に三和へ沈んでくる。
男性ばかりなので性風俗もあるんですけど、最低価格50元とか、アホみたいに安いらしい。女性の側も似たような階層の人だと思います。一方で男たちは、ちょっと稼いだ金を、ネトゲやタバコやそういうことに使ってしまって、さらに浮き上がれなくなる。
いっぽう、三和ゴッドは近年の日本の「トー横界隈」みたいな独自のコミュニティを形成していて、ネットとリアルが接続する内部においては、界隈では名が知られた人がいたりもする。そんな側面もありました。

排水溝から覗き込んだネカフェの店内。当時、安田撮影。
──三和の背後には、中国社会のどんな構造があったんでしょう。
安田 中国は人が多くて、競争が激しいんですよ。でも、公平な競争じゃない。生まれた家や地域や階層、受けられた教育によって、最初からスタートラインが全然違う。日本の親ガチャどころのレベルじゃない。
そんな社会で、借金を背負った、学歴を取れなかった、となると、浮き上がれないんですね。心身の健康を害した場合はなおさらでしょう。そうした問題を抱えていない人たちが、椅子取りゲームの取るべき椅子を取ってしまっているからです。
一回負けると、もう無限に沈む。その沈み切った先にあったのが、三和。
商業化される「ダメ人間」
──それから10年が経ち、いまは「電子ペット人間」が話題になっています。三和との最大の違いは何ですか。
安田 いま、貴州省で電子ペット人間になっている人々も、『南方人物週刊』の記事を読む限り、社会階層としては往年の三和ゴッドにかなり近い。10年経ったいまも、ネットカフェに入り浸っている人たちです。
ただし最大の違いは、そのダメ人間ぶりが商業化されていることです。もちろん往年の三和ゴッドも、もとはネットミームで「(見方によってはすこしだけ羨ましい気もするけど、自分は絶対になりたくない)ダメ人間」に対する多少の揶揄や見下しを含んだ言葉でしたが、当時はその感情に金銭が乗ってはいなかった。
貴州省の電子ペット人間の場合、ネカフェの老板(店長)が、夕方の視聴者(投げ銭アニキ)が増える時間になると、「お前ら、配信の時間だぞ」と彼らに告げる。で、投げ銭アニキから差し入れをもらったら「ありがとうございます」と言わせる。アニキから「腕立て伏せをしろ」と言われれば、目の前でやらせる。
彼らの“人生詰んでる感”を、そのまま金銭化しているわけです。三和ゴッドの時代と違い、いまは、落ちぶれに値段が付く。
──それを見て、どう感じますか。
安田 グロテスクで顔をしかめたくなりますよ。ただ、話をややこしくしているのは、それが彼らの生活を維持する手段でもあることです。人権的にはヤバい。明らかに悪趣味な見世物だし、投げ銭する人は見下してカネを出しているんだけど、電子ペット人間たちはとりあえず飯が食える。このへんのモヤモヤは、中国在住の華村さんという方がnoteで指摘されている通りなんです。
投げ銭アニキの心理は、かつて三和ゴッドをミームとして消費していた人たちとあまり変わらないでしょう。自分は絶対に落ちない世界に、本気でダメな奴らがいる。そこで笑ったり、安心したりする。実は自分たちの生活も苦しいし大変だけど、「まあ、こいつらほどひどくねえぞ」と確認する。それで少し投げ銭をする。完全にコンテンツとして消費しているわけです。
まあ、日本でも貧困や虐待の体験を喋るコンテンツはYouTubeの『街録』なんかでも鉄板の内容なので、人類は日本人も中国人も一緒なんでしょうけど。ただ、ここまでエグいことをやれるのは、中国の社会だからでもあるでしょうね。
──なぜ10年前には、同じ仕組みが生まれなかったんでしょう。
安田 仮に当時、いまと同じ動画配信と投げ銭のシステムがあったら、三和ゴッドにも同じことをやるやつは結構いたと思います。ただ、やらない人もいたはず。なぜなら、当時は製造業の現場で常に人が足りなかったから。短期の非熟練労働がいくらでも募集されていて、そこに寄りかかれば、とりあえず飯を食うだけの金は稼げた。

2017年の富士康工場のラインワーカー求人。時給16元(当時だと二百数十円くらい)。安田撮影
でも、いまの中国は自動化がすごく進んでいる。ロボットは党の政策としても力を入れる分野ですから。いっぽうで景気は悪い。
結果、10年前なら「金がないからライン工をやろう」となった人たちの一部は、いまはライン工すらやれなくなっている可能性がある。暑いなかでフードデリバリーとか、それぐらいしかない。他の稼ぎ方は、昔よりしんどくなっているんじゃないですか。
貴州省の電子ペット人間たちも、投げ銭以外の収入源は、ネトゲをやってゲーム内のアイテムを手に入れて人に売る。まあ、それ自体は三和ゴッドの時代からやっていた人がいましたが、ものを作るライン工とは違って何の生産性もないというか……。いろいろあって結果的に、貧困そのものを配信する現象が出てきたんだと思います。
──この電子ペット人間は、今後どうなりますか。
安田 中国あるあるですが、何かが話題になってカネが動くかも? となると、大量の模倣業者が出てくるんです。『南方人物週刊』の記事に出てきたネットカフェの店長は、やっていることは悪趣味だけど、多少のボランティア精神も持っているんじゃないかと華村さんがnoteで書いていて、私もそう感じます。でも、次に真似する奴らは、もっとえげつないことをやる。
例えば視聴者が、「投げ銭でラーメンを買ってやる。ただし地べたにブチまけて犬食い。やれば500元やる」とか「電子ペット同士で殴り合え。勝ったやつに1000元やる」とか言い出して、それをコンテンツにする業者とか。あと、若い女の子だけを集めて「服も買えない貧困女子です」と言わせる業者とか。
──えげつない。
安田 その後の展開は二つです。一つは、話題になりすぎて当局からの怒られが発生。結果、潰される。
もう一つは、模倣業者が乱立して過当競争になる。最初に多少のボランティア精神で始めた老板は、儲からなくなって退出する。地獄みたいな業者だけが残る。でも、見る側も飽きる。あざとく作られすぎてて「つまんねえ」となる。政治的理由で潰れるのか、市場的理由で滅びるのかはわからないけど、話題になった場合は数年以内にどこかで滅びると思います。
ただし、それで問題が解決するわけではない。そこで食えていた人たちは、また路頭に迷う。救われる可能性のあった細い道まで、さらに塞がれるわけです。
──行き場を失った人たちは、どこへ向かうんでしょう。
安田 東南アジアの特殊詐欺園区にも通じると思いますよ。特殊詐欺園区で働く暗黒ニキ、つまり詐欺「会社」の従業員には、食い詰めてほかに行き場がない人間がかなりいる。合法的な製造業から排除され、電子ペットみたいな半端な救済も消えたら、より反社会的な世界に吸収されやすくなるでしょうね。でも、たぶん彼らって仕事(=詐欺)のスキルは低いはずなので、あっちでも暴行や人身売買の対象になりやすいでしょう。
三和ゴッドの頃は、負けた人間が工場とネットカフェの間を漂っていた。いまは、その貧困が投げ銭の見世物に。そこからも脱落した人間は、園区の世界へ。結局、落ちた先でも、さらに生存競争が続く。そういう世界ですよね。
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