中国の対沖縄工作の目的・意味・成果を考える②

習近平発言でパラダイムシフト発生
安田峰俊(Minetoshi Yasuda) 2026.07.29
誰でも

さて、話の前提は前回記事でお伝えした通り。では本題に……。ですが、ちょっと告知です。8月19日刊行の新刊です。

詳しい内容は別記事で話します。プロ16年目、はじめて中国崩壊本を書きましたが、たぶん中国崩壊業界でいちばん崩壊させています。

……といいますか、中国崩壊とか台湾有事とか党指導部の内幕とか、世間のその手の本の9割はウソ八百か針小棒大の話なので(個人の主観)、それなら最初から「現実感があるスゲー事態」を小説で書いちまえ! という試みです。中国が好きすぎるので、自分で完璧な中国を創造してそれをぶっ壊すことで異常嗜好を満たしました。反省はしていない。

もっとも、ジャーナリストが無理して書いた、棒切れみたいな文章の自称小説というパターンじゃありません。野上武志先生のイラストと星海社Fictionsの看板は、そんな半端な代物にはつかないのです。

話はきっちり面白いエンタメ。女の子かわいい。敵かっこいい。作中で起きる危機は超リアルだけど、みんなで世界を救うのだ。

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と、お知らせはほどほどにして。以下、解雇危機で心を入れ替えたAI記者のおっさん・田辺をインタビュアーとして、中国の沖縄工作の実態について対話形式でお送りします。

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本来は沖縄に関心が薄かった中国

──もう、勘弁してください! 再雇用で給料半分になって嫁が激怒しとるんです! 船橋の自宅のローンどうすりゃいいんですか!!

安田 田辺、AIなのに船橋市民だったのか。

──京成松戸線の沿線住みですよ! まだ文句を言いたいですが、仕方ないので仕事をします。中国の対沖縄工作の理由と成果ですな。まず、過去の経緯の把握からいきましょうか。

安田 いいでしょう。まず、中国はかつての毛沢東時代は「沖縄は日本のもの」という姿勢で、沖縄の革新勢力による本土復帰運動を後押ししていた。当時の中国はアメリカと対抗していたので、米国の沖縄統治を批判していたわけです。

1965年、日本の青年交流団を受け入れた際の中国の記念切手。単位が8分なのも時代を感じる。

1965年、日本の青年交流団を受け入れた際の中国の記念切手。単位が8分なのも時代を感じる。

その後も中国は(尖閣関連を除くと)沖縄自体にはさほどの関心を持ってきませんでした。私が21年秋に薛剣・在大阪総領事にインタビューした際に、沖縄の話題を出したときも、当時の彼は全然興味なさそうでしたしね。

実際、沖縄は歴史的には中国大陸と非常に関係が深いものの、「中華人民共和国」との縁は本来は弱いんです。2010年代以前は、在沖縄の新華僑コミュニティもかなり小さい。1980年に那覇市と福州市、その後に沖縄県と福建省が姉妹提携を結んだ際はちょっと盛り上がりましたが、福建側からの省長クラス以上の要人来日も、たぶんゼロ年代前半が最後。中国大使どころか、沖縄県を管轄範囲とする駐福岡総領事もあまり頻繁には来なかった。

ところが、3年前にそれが一変します。きっかけは2023年6月、習近平が「琉球の歴史」に関心を示す発言をしたこと。実は習近平は1990年代〜2000年代の福建勤務時代に、沖縄に何度も来ているんですよね。たとえば、前に那覇市役所の史料室でこんな史料を見つけました。

1991年5月、まだ福州市の幹部だった習近平が友好交流で沖縄に来たときの史料。『広報なは 市民の友』(1991年6月15日付け)より。

1991年5月、まだ福州市の幹部だった習近平が友好交流で沖縄に来たときの史料。『広報なは 市民の友』(1991年6月15日付け)より。

このときの習近平は、『島耕作』でいうと課長編〜部長編くらいの時代です。当時の彼は海外視察に行くときに現地の歴史や文化を調べるマニアだった。なので、沖縄史もかなり勉強していた。福州市の琉球館の修復とか、久米三十六世の訪問団接遇とか、実務上でも文化事業にタッチしてましたしね。

もっとも、当時の動機はあやしい謀略のためじゃない。日本と中国の国力差がありすぎましたし、日中関係も良好でしたから。動機は業務上の予習と、あとは彼本人の趣味と興味関心だったはずです。だから、習近平は「琉球の歴史に詳しい」。

一気に始まった沖縄接近

──しかし、現在の習近平氏が「私は琉球の歴史に詳しいんだ」と口にした場合、意味するところは変わってくる。違いますか?

安田 その通りです。なので、23年6月の習近平発言を契機に、その後、中国の各部門が一気に沖縄への働きかけを強めるようになった。

例えば外交部門は、在福岡総領事が多いときには月一度くらいの頻度で沖縄を訪れるようになりました。ながらく沖縄を訪れていなかった駐日中国大使(呉江浩)の訪問もなされた。さらに、福建省からは従来の訪問者で最高位である党委書記の周祖翼まで訪沖した。

周祖翼は習近平派の次世代ホープの一人で、次の党大会で政治局入りもあり得る重要人物です。ここらへんは、2024年末に『週刊現代』に2号連続でいろいろ書いたんですが。

これらと並行して、中国側の学術界では、沖縄の「地位未確定論」のような議論が活発になり、「琉球研究」さえ口にすれば科研費っぽいお金が天井知らずで出るようになった。沖縄側の琉球独立派を無料で中国に招待し、接待することも活発になっています。

いっぽう、ネット上では「琉球独立」「琉球は中国の領土だ」「琉球民族は中華民族だ」みたいなことを主張する、超低クオリティなプロパガンダ動画が大量に流れるようになりました。こちらは下記の文春オンラインの記事なんかで書いています。

沖縄とは無関係と思われる普通の日本人女性のTikTok動画が中国側で大量に無断転載。「琉球人の女の子は祖国中国に帰りたい」みたいな字幕が付けられる。クオリティ的には超クソ動画

沖縄とは無関係と思われる普通の日本人女性のTikTok動画が中国側で大量に無断転載。「琉球人の女の子は祖国中国に帰りたい」みたいな字幕が付けられる。クオリティ的には超クソ動画

中国のこういう動きは、実は2025年夏にちょっと飽きて下火になりかけていたんですが、同年11月に高市首相の台湾有事発言があって、中国政治の対日制裁モードがブースト。そこで、もっと嫌がらせしてやれと。結果、対沖縄の動きも再び活発化して現在に至っています。

つまり、私が今年5月以降に『週刊ポスト』で紹介した、党の中央宣伝部の影響が強い『環球時報』の記者が辺野古に来て変なことするとか、中国側のあやしい団体が沖縄の平和団体に接近したりとかという現象も目立つようになっている。

すげえ大量にやってるけど矛盾だらけ

──では、肝心の中国側の意図についてです。彼らは達成目標として何をやりたいんでしょうか。

安田 実はこれ、難しいんです。「目的は沖縄侵略だ!」とかバッサリ言えると、ネトウヨが喜んで金になるんですけど、実際はそうとも言い切れない。だって、それぞれの現場がやっていることが矛盾だらけなんです。

例えば外交方面は、在福岡総領事の楊慶東が「月刊総領事」状態で訪沖してる。呉江浩大使も周祖翼福建書記も行ってる。しかし、国の公職に就く人間が公式訪問して、玉城デニー知事に会う行動って、中国は「沖縄県が日本の一部」なのを認めてるってことですよね。仮に「琉球は日本に属さない」と本気で考えているなら、大使や総領事が”帰属未確定地域”に行き、日本側の実行統治の象徴である県知事と公式に会うのはヘンです。

だから、プレーヤー①である中国外交部は、沖縄が日本の一部であることをいちおう認めた上で、沖縄県政と”良好“な関係を築こうとしている。要するにソフトな取り込み工作をやってます。在沖縄の複数の華僑団体も、外交部との関係は多少ぎくしゃくしていますが、基本的にはこのラインで県庁や県議と中国側の橋渡しをやっている。

「沖縄対話プロジェクト」に来る上海国際問題研究院の中国人研究者とか、沖縄の平和団体と接触する中央党校系の中国人エリートも、やはり似た姿勢で沖縄の平和団体に接近しています。この人たちが中国のプレーヤー②です。

辺野古の反対協や平和団体は、琉球独立派との交流はあっても琉独論者じゃない。中国の”好意”や”領土的野心のなさ”みたいな建前の言葉を、何の疑念もなく信じこむイノセントな人たち。でも、彼らの活動は沖縄メディア(『琉球新報』『沖縄タイムス』など)のウケがよく、一定の世論的影響力がある。

そんな彼らに対して、プレーヤー②の人たちも、沖縄帰属未確定論とか琉球独立支持みたいなギラついた話は絶対に出さない。「沖縄の平和に寄り添う心」とか、やっぱりソフトな方向から取り込みをやっている。

──はい。

なんでこれを同時にやってんの?

なんでこれを同時にやってんの?

安田 なのに、ネット上には琉球独立や中国帰属を煽るデマ動画が大量に流れはじめている。中国人は本来は沖縄への興味が薄いので、個人がインプレ稼ぎでやるとは思えない行動です。明らかに当局のどこかの部門の関与が疑われる。これがプレイヤー③。私は地方政府の宣伝部が外注している連中の仕事だろうと思っていますが。

また、『環球時報』のような党系メディアも、昨年11月に沖縄の日本帰属に疑念を投げかける社説を発表。その後は英語と中国語の紙面において「沖縄県」と書かず「琉球」とだけ書くようになっています。辺野古を訪れた記者の肩書きも「赴沖縄特派記者」じゃなく「赴琉球特派記者」。日本本土と沖縄を分断させる気満々。これがプレイヤー④。

さらにプレイヤー⑤は、中国国内の沖縄関連学術界、具体的には北京大学の徐勇氏とかそのへんの人たち。彼らも沖縄の地位未確定論を繰り返していて、琉独派を盛んに接待している……。

──合理的に考えれば、ヘンですよね。

安田 プレイヤー①の外交部、プレイヤー②の上海市や中央党校(あとたぶん地方の統戦部)あたりは、沖縄とコネを作ろうとしている。なので、不信感を抱かれないように行儀良く振る舞っている。なのにプレイヤー③の(たぶん地方政府の党宣伝部傘下の)クソ動画部隊、④の『環球時報』や(たぶん)中央の宣伝部、⑤の学術界は、明らかに沖縄県民に嫌悪感や不信感をもたらしそうな行動を雑な形で繰り返している。

これって、気になる異性と付き合いたい男が、デート中にすごく親切で紳士的に振る舞って信頼関係を構築しつつ、同時に自分の全裸ご乱行画像30枚をLINEで相手に送ってるみたいな行動です。もはや奇行でしょ。明らかに矛盾したアプローチ。しかも、どっちも公然と。

そこで逆に聞きたいんですが、AIの田辺は中国がこんなことをしている理由は何だと思います?

左と右を同時にやって迫るの、異常行動じゃないっすか?

左と右を同時にやって迫るの、異常行動じゃないっすか?

したたかな目くらましをやってるとは思えない

──日本側を揺さぶろうとしている。琉球独立の実現が目的ではなく、日本の内部対立を煽ったり、将来の交渉材料を作ったりしている。複数の狙いを同時に追っている。そういう、中国のしたたかな戦略ではないですかね。

安田 おお、田辺が本気だ。事実、ネット上の真面目な国際政治の議論や、メディアの社説なんかだと、だいたいそういう答えになります。それを学習したAIも、やっぱりそう言う。

しかし、当事者はおそらく、必ずしもそこまで明確な論理を自覚して動いていないと思うのです。だって、ソフト路線のものも含めて、個々の行動が雑すぎる。

彼ら、情報をほとんど隠そうとしていないんですよ。なので、いつかは日本の特定官公庁の人たちにも普通にバレる。っていうか、一民間人の私にすらバレてる。オープンソースで思いっきり、自分の存在を背景まで見せてるし。

仮に、統合された一つの方針が存在していて、意図的に矛盾した行動を組み合わせているのなら、もう少し慎重にやる。出す情報も上手にコントロールするはずです。

──一貫した戦略に従って全員が動いているというより、いくつもの部署や立場の人間が、それぞれ勝手に動いている。だから、全体としてちぐはぐに見えるわけですかな。

安田 田辺、マジで賢くなってる。おおむねそういうことでしょうね。あと、加えて言えば、すくなくとも現場の人間の本当の行動原理は別の動機に基づくものだと思ってます。

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嫁に怒られて本気を出した田辺。話が長くなったので、いったん記事を分けましょうか。

あ、最後にしつこいですが告知再掲です。

安田峰俊
@YSD0118
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野上武志 Takeshi NOGAMI@takeshi_nogami
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2026/07/29 14:38
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