サンリオのVIVANTコラボ撤回がもたらす暗い未来

なおVIVANT自体はどうでもいい
安田峰俊(Minetoshi Yasuda) 2026.10.31
誰でも

さて今回の話は、近頃世間を騒がせているサンリオのVIVANTコラボ撤回問題についてです。

ネットを見ていると、サンリオの決定に賛同する意見も多いようです。その立場はおおむね、下記の2つにまとめることができます。

  • VIVANTの中国描写を「隣国への憎悪を煽る」と感じて、VIVANTというコンテンツそれ自体に不快感を示す立場(=政治的志向からVIVANTを嫌う立場)

  • サンリオの平和主義的な企業理念に照らすとVIVANTとのコラボはそもそも不適切であり、今回のサンリオの決定は妥当であるとする立場(=サンリオガチ勢)

まあ、①はさておき②はわかります。いや、サンリオ自体はよくわかりませんが、ある世界観のファンが、その世界観と相違するものを許せない気持ちはわかります。ドラクエで英語の特技や呪文が出てきたら萎えるとか。いろいろある。

問題はそこじゃない

しかし、政治思想ガチ勢もサンリオガチ勢も、今回のコラボ撤回決定に関しては、その経緯における重要なポイントを見逃しています。詳しくは下記の高口康太さんの記事をご覧ください。

つまり、CCTVや環球時報などの中国の当局意見代弁媒体の報道が出たことで、サンリオ側が日本国内のVIVANTコラボを引っ込めたという構図です。

なかでも影響が強かったと思われるのは、環球時報の批判記事でしょう。現在確認できるもののタイトルは「ハロー・キティは日本の右翼と共にダンスをするな」(Hello Kitty不应与日本右翼共舞)。中国の官製媒体から直接名指しで、キティちゃんが三角帽子をかぶせられて政治批判の槍玉にあげられた形です。

当然、文言も激烈です。特に露骨な恫喝だと思えるのが、以下の記述です。

中国は、サンリオにとってきわめて重要な海外市場である。

2026年上半期、サンリオの中国市場における売上高は7億8100万元に達し、前年同期比で40%以上増加した。サンリオグループはかつて、中国国内で次のシナモロールを生み出したいとも表明している。

中国市場を重視するのであれば、中国を尊重する姿勢を具体的な行動で示すべきである。

日本に置き換えると、売り上げをト●タに依存している町工場が『トヨタ●ムス』から名指しで「お前らのウチからの売上額〇〇億やな。で、お前らなんでト●タに都合悪いドラマとコラボしてんの? ト●タを尊重する姿勢を具体的な行動で示せ」と書かれるようなものです。これはヒッとなる。

事実、コラボ撤回の発表は、中国国内のサンリオ上海が中国語で出したもののほうが先でした。なんと環球時報の批判記事が出た3時間後に発表されています。一方で日本国内本社からの発表は翌日午後です。中国側の法人がビビりまくり、とにかく早期に鎮火を図った様子が見て取れます。

サンリオ上海のポスト

サンリオ上海のポスト

国内の炎上案件とは構図が違う

仮に今回のコラボ撤回の決定が、日本国内の左派なりサンリオファンなり(さらにはネトウヨ国士なりジェンダーポリコレ界隈なり)の人たちからの批判”だけ”を受けて決定されたのであれば、それは国内のいつもの話ですので、本質的には大きな問題ではありません。

すなわち、Mrs. GREEN APPLEのMV炎上や、東急ハンズのゴリラゲイ雨ポスト炎上と同じこと。たぶん、どこかの誰かがお金を損したり仕事を干されたり、燃やした誰かが開示請求をかけられて焦ったりしているはずですが、日本国民全体にとってはそれ以上の話ではないわけです。

しかし、今回のサンリオ事件は話が違います。

中国側の官製媒体から、市場を失いたくなくば「中国を尊重」(=中国の政治的ドグマに従属)せよというほぼ公的なアナウンスがなされたことで、日本国内の広告表現が変更された。

この点にこそ、問題の本質があります。

国士様陰謀論が現実に

今回の1件は、中国側に成功体験を与え、「学習」させることになったと考えられます。

彼らはこれまで、中国企業と声優のコラボや中国国内での日本人歌手のライブを潰すことはできていても、日本国内の「反中」言説や表現に直接の圧力をかけることはできないでいた。それが、今回の件でハック方法が発見されてしまったといえます。

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今後、たとえばテレビの報道番組が中国に批判的な論調の報道をおこなった際に、中国が同様の論理でスポンサーに圧力をかけたら?

また、中国に批判的な記事が掲載された雑誌や書籍を刊行する出版社──つまり大手出版社(=集英社・小学館・講談社など漫画IPで中国市場を無視できない会社)にも、同様の圧力をかけてきたら?

個々の企業の経済活動です。彼らは屈服するでしょう。そもそも、報道分野はテレビ局や出版社の経営視点から見れば、カネだけかかって利幅が薄い非採算事業です。そんな事業のために、中国の巨大市場を失う決定をする経営者はなかなかいません。

なにやら「日本のマスコミは中国に支配されている!」と叫ぶ国士様の陰謀論みたいな話ですが、私のこの懸念はかなり現実的だと思っています。なぜなら、今世紀に入ってからの香港で、チャイナマネーを背景に実際にそういうことが進行したから(台湾でもある時期までは相当進みました)。

陰謀論ではなく、本当の懸念です。

批闘大会に引き出される対象がキティちゃんだけで終わるとは限らない

批闘大会に引き出される対象がキティちゃんだけで終わるとは限らない

なお、言うまでもない話ですが、これはVIVANTが作品として良質か、サンリオの企業コンセプトがいかなるものであるかとは関係がない話です。

個人的感想をいえば、VIVANTは中国語の発音が不自然で生理的にしんどくなるので、内容が頭に入らなくて困ります。

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